相続税の節税に不動産が有効な理由
2021/4/12
2021/04/12
この記事ご覧いただいている方は、「相続税の節税に不動産が有効」という話をどこかで聞いたことがあると思います。不動産が相続税の計算をする際にどのような評価をされるかを知っておくことで、今後の相続対策を失敗なく進めることができます。本記事では、不動産と相続税の関係を網羅的かつ簡潔に解説いたします。
1.そもそも相続税はどのように計算される?
まず、相続税の計算の仕方を簡単に確認します。
相続税は、お亡くなりになられた人が持っていた財産を税法のルールに従って時価評価して、そこから債務やお葬式費用を差引いた金額に対して、一定のルールで相続税率を掛けて計算をします。また、相続税の課税対象となる財産の合計額が「相続税の基礎控除額」以下であれば、相続税がかかりません。
<相続税の基礎控除額>
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
したがって、「財産の税法上の時価評価額が小さくなると、相続税額も小さくなる」という仕組みになっています。
2.なぜ不動産の相続税評価額は低いのか?
財産の税法上の時価評価額は、基本的に「財産評価基本通達」というルールに従って計算をされます。その「財産評価基本通達」では、市街地地域の宅地は「路線価方式」により評価を行い、家屋は「固定資産税評価額」により評価を行うこととしています(財産評価基本通達11、89)。
*土地は「路線価」で評価されるから、実際の時価よりも評価額が低い
「路線価」というのは、その名の通り、道路ごとに付けた1㎡あたりの土地の価格のです。例えば、東京銀座の「鳩居堂」前の道路には1㎡あたり約4,600万円(2020年度)の路線価がついています。仮に、この道路沿いに100㎡の土地を持っていた場合、相続税計算上の評価額は4億6,000万円(4,600万円×100)になるという具合です。(実際には様々な調整が入りますが、本稿では割愛します)
この「路線価」は、毎年7月1日に国税庁が発表しますが、その算定は国が毎年3月に公表する「公示地価」の概ね80%になるようにしています。「公示地価」というのは、その年の1月1日時点の正常価格として不動産鑑定士が鑑定した地価でして、民間の土地取引でも参考にされるオフィシャルな時価と言っても過言ではない評価額です。つまり、ほとんどの場合において、土地はそのときの実際の取引価格よりも相続税計算上の評価額の方が低くなる制度になっています。
(なお、郊外では「路線価」が設定されていない地域もあり、その場合は「固定資産税評価額」をベースに相続税計算上の評価額を算定します。この場合も相続税計算上の評価額は時価の概ね80%になるように調整がされます。)
*建物は「固定資産税評価額」で評価させるから、実際の時価よりも評価額が低い
「固定資産税評価額」というのは、固定資産税や不動産取得税の計算に使われる評価額です。建物の固定資産税評価額は、国の定める「固定資産評価基準」に沿って、市町区村が算定しています。新築家屋であれば請負工事金額の50%~70%となり、その後は築年数に応じて評価額が減少していきます。つまり、ほとんどの場合において、建物は建築費用よりも相続税計算上の評価額の方が低くなる制度になっています。
●土地の評価(路線価方式) 路線価≒公示地価×80%
●家屋の評価(固定資産税評価額方式)固定資産税評価額≒請負工事代金×50%〜70%(新築の場合)
このように、国の定める相続財産の評価方法が、土地・建物ともに実際の取引価格(時価)よりも相続税評価額の方が低くなる仕組みになっています。
3.第三者に賃貸するとさらに評価額が低くなる
路線価や固定資産税評価額という相続税計算上の時価の捉え方以外にも、不動産の相続税評価額が低くなる仕組みがあります。それは、不動産を第三者に賃貸すると評価額が低くなるというものです。
不動産を賃貸すると、法律により、借主はその土地や家屋を借り続ける権利を手に入れることができます。地主や大家の立場から見れば、貸している土地や家屋を別の用途に使いたくなっても、借主に出て行ってもらうことができないため、その分利用価値が下がっているとも言えます。この利用価値低下分を相続税評価額に反映させるために、「財産評価基本通達」では、第三者に賃貸している不動産の評価減を定めています。(財産評価基本通達25、26、93)
例えば、所有する土地に貸家を建設した場合の建物と土地の評価額は次の通りになります。
<貸家の評価減>
建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(*1)×賃貸割合(*2))
<貸家の敷地になっている宅地の評価減>
自用地価格×(1-借地権割合(*3)×借家権割合×賃貸割合)
*1 借家権割合は、全国一律30%です
*2賃貸割合は、被相続人がお亡くなりになった日における床面積計算での入居率です。満室であれば100%となります。
*3 借地権割合は、地域により20%~90%と幅があります。国税庁の公表している路線価図で調べることができます。注意すべき点としては、親族に無料や少額の賃料で貸しているような場合は、不動産賃貸による評価減は適用されません。特に、会社経営者が個人で所有している土地を自分の会社に無料や固定資産税相当額程度で貸しているような場合は、相続対策の一環として賃料の見直しをしてもよいかもしれません。
4.「小規模宅地等の特例」が適用されれば、評価額が50~80%減少する
相続税評価の特例として「小規模宅地等の特例」というものがあります。最大で土地の評価額が80%減になる非常に効果の大きい特例です。
小規模宅地等の特例には、土地の活用状況に応じて4つの種類があり、種類ごとに限度面積や減額割合が異なります。
<小規模宅地等の種類>
種類 | 概要説明 | 限度面積 | 減額割合 |
特定居住用宅地等 | 被相続人等の居住用の宅地等 | 330㎡ | 80% |
特定事業用宅地等 | 被相続人等の事業用の宅地等 | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 被相続人等の経営する法人の事業用の宅地等 | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等 | 被相続等の賃貸事業用の宅地等 | 200㎡ | 50% |
例えば、お亡くなりになられた方のご自宅の敷地(200㎡)の路線価が15万円だった場合に、小規模宅地等の特例「特定居住用宅地等」の適用を受けられた場合2,400万円の評価減になります。納付する相続税額ベースでの影響では、仮に相続税の税率30%として仮定すると、実に720万円の節税になります。
<計算例>
①小規模宅地等の特例の適用前の評価額
15万円×200㎡=3,000万円
②小規模宅地等の特例による減額
15万円×200㎡×80%=2,400万円 →720万円の節税!(相続税率30%の場合)
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続前の利用状況はどうだったか、だれが相続するのか、相続後の利用状況はどうなるのか、などいくつかの適用条件があり、税務調査でも厳しくチェックをされます。「○○だったということにしよう」のような安易な誤魔化しは効きません。 相続税対策をするうえで、非常に重要な特例ですので、事前にどの土地で小規模宅地等の特例を受けられそうか、確実に適用を受けるためにどのような準備をするべきかを税理士に相談をしておくとよいでしょう。
5.「地積規模の大きな宅地の評価」が適用されれば、評価額が20%以上減少する
税法で決められている「地積規模の大きな宅地」に該当する場合は、その地積などに応じて、土地の評価額が減少される特例があります。
どのような土地が「地積規模の大きな宅地」に該当するかというと、三大都市圏(東京、大阪、名古屋)においては500㎡以上の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000㎡以上の宅地で以下に該当しない宅地をいいます。
(1)市街化調整区域に所在する宅地
(2)都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
(3)指定容積率が400%(東京都の特別区は300%)以上の地域に所在する宅地
(4)財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地
※東京都の用途地域や容積率などの都市計画情報は「都市計画情報等インターネット提供サービス」で調べることができます。
「地積規模の大きな宅地の評価」における地積の判定は、マンションを区分所有している場合には、そのマンションの敷地全体に対して行います。したがって、マンションを買う際には敷地全体の地積と容積率などを確認してから購入すると、相続税を軽減することができます。(もっとも、税金のことばかりを気にして不動産を購入すると本末転倒になることもあるので、参考程度にお考え下さい)
6.不動産を使った相続税節税の落とし穴
不動産を使った相続税の節税には注意しなければならない点もあります。代表的な3つの落とし穴について解説をします。
*不動産投資のリスク
不動産を使った節税であっても、投資の側面があります。国に納める税金が小さくなったとしても、それ以上に資産のもつ価値自体が低下してしまっては本末転倒です。不動産投資をする際は、入居者が入らないリスクや、経年劣化等により賃料を下げなければならないこと、定期的に大規模な修繕が必要なことを加味した事業計画をもって取り組みましょう。
また、不動産事業を引き継ぐことになる相続人の方にも、その後の運用方針や、相続後の売却方針を話しておくことも大事です。相続人の方に不動産経営の才覚があればよいのですが、手に余るようであれば、適切な助言者をつけたり、いっそ売却してしまった方が相続人にとっては幸せかもしれません。
*税のルールが変わるリスク
現在有効とされている節税方法が、5年後、10年後にも有効かどうかの保証はありません。税の取扱いは頻繁に変更がされています。
一例をあげると、平成30年度の税制改正で小規模宅地等の特例「貸付事業用宅地等」が改正され、死亡前3年以内に貸し付け事業に利用し始めた宅地等は原則除外されることとなりました。
また、死亡する数年前に高級賃貸マンションを購入して相続税を大きく節税し、相続した直ぐ後に売却するなどしたケースにおいて、実際の市場価格(鑑定評価額)と相続税評価額がかけ離れすぎていることを理由に、上記で説明したような有利な評価方法ではなく、実際の市場価格(鑑定評価額)で相続税を課税される事例が報告されています(ex:東京高裁2020年6月24日<令和元年(行コ)第239号>)。現時点では、「相続後にすぐに売却したりしなければ問題ないのではないか」などともいわれていますが、今後のルール変更には注意を払った方がいいです。
*遺産分割が難しくなる
相続財産が現預金や有価証券ばかりであれば、相続人同士の分割割合だけを決めればよいので、財産の分け合いは容易です。反対に、相続財産のうちに不動産の占める割合が大きい場合、相続人同士で財産を分け合うのが難しくなる傾向があります。ご兄弟間の平等を重んじた結果、ひとつの不動産を共有することを選択なさるケースも多いです。不動産を共有で相続することで、相続時の合意は取りやすいですが、その後不動産を修繕したり、売却したりという大きな意思決定をする際に共有者同士の意見が合わず、かえって親族間の軋轢を生むもとになりやすいのも事実です。相続対策に不動産を活用する場合は、誰に何を相続させるかという目線での検討もするとよいでしょう。
7.まとめ
相続税の計算をする際に、不動産がどのように評価されるかという知識を上手く使うことで相続税の負担を軽減することができます。しかし、過度な節税目的の対策は後日税務調査で認められないケースもあります。また、目先の税金対策ばかりに意識がいってしまい、肝心の不動産経営に失敗し、かえって資産を減らすことになったという話もよく耳にします。対策を実行する前には、信頼できる税理士や不動産経営のプロに相談をするとよいでしょう。