生命保険を活用した5つの相続対策

2021/9/19

2021/09/19

この記事の監修

三鷹相続相談センター代表/BASE総合会計事務所代表税理士 米津良治

上智大学法学部卒業後、一般企業を経て税理士業界へ。キャリアを一貫して、企業財務と個人のマネープランの支援に取り組んでいる。法人顧問をメインに扱う税理士法人にて相続・事業承継案件の担当役員を経て、企業経営者と不動産オーナーの相続・事業承継対策に注力するために、令和2年に独立開業。

 生命保険は一家の大黒柱が倒れたときのリスク対策・遺族の生活保障の観点で加入するイメージが大きいと思います。もちろんそのような効果も大切なのですが、実は生命保険独特の性質を使いこなすことで様々な相続対策に応用できます。今回は生命保険を活用した5つ相続対策をご紹介します。

1.生命保険金と税金

 本題にはいる前に、生命保険金を受け取った場合にどんな税金がかかるかの確認をします。表にまとめると以下の通りです。状況によってかかる税金が変わってきますのでご注意ください。

<家族構成>父、母、長男の3人家族

      

No契約者被保険者受取人かかる税金
長女相続税
長女贈与税
長女長女所得税
生命保険にかかる税金

(参考)国税庁ホームページ:死亡保険金を受け取ったとき
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm

 今回は、上記のうち最もポピュラーな契約形態①(被保険者本人が契約者であった場合)の生命保険契約について解説をします。

2.死亡後、預金が凍結されてもすぐに自由なお金を手に入れられる

 銀行が銀行口座の名義人が死亡したことを把握すると、預金口座が凍結されます。凍結された預金口座は、遺言で相続人が指定されていない場合は、遺産分割協議で誰が相続するかが決まらない限り引き出すことはできません。(法改正により2019年7月以降は他の相続人の承諾なしに一定の引出はできるようになりました。)

 相続人同士で話がまとまらず、遺産分割協議が長引く場合は長期間預金を引き出すことができず、相続人の生活資金や事業資金に深刻な影響が生じる可能性があります。また、相続トラブルがない場合でも故人の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明の取得が必要など、預金口座解約の手続きは煩雑で実際に資金を引き出すまでは想像以上の時間がかかることがあります。葬式費用や故人の医療費、税金など遺族の生活費以外にも必要になるお金は意外とありますので、故人の預金を引き出すのに時間がかかると相続人が困ってしまうことがあります。

 その一方で、生命保険の場合は受取人だけ(他の相続人は不要)の手続きで、早ければ5~10日程度で受取人名義の預金口座に保険金が支払われますので、当座のお金のやりくりに困ることはなくなります。

3.保険金には相続税がかからない(法定相続人 1人あたり500万円まで)

 上述「生命保険金と税金」の通り、被相続人の死亡によって取得した生命保険金で、その保険料をお亡くなりになった人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。しかし、相続税法第12条の規定により、この死亡保険金の受取人が相続人である場合、次の算式によって計算した非課税限度額までは非課税となります。

 【計算式】 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

(参考)国税庁ホームページ:相続税の課税対象になる死亡保険金
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm

 具体例でご説明しますと、相続人が子供2名の場合は法定相続人が2名ですので1,000万円(500万円×2)までの生命保険金は相続税がかかりません。仮に財産が1億2千万円ある場合に、1,000万円分の生命保険に契約をすれば相続税の支払額は200万円減少することになります。手許のお金を生命保険に変えるだけで家族に残せるお金が増えるので、非課税枠を利用しないのはもったいないと言われたりもします。

 注意点もあります。生命保険金が非課税になるのは、受取人が民法上の相続人である場合だけですので、例えば孫を生命保険の受取人にした場合は非課税枠を利用できません。生命保険の契約をする際は、税理士等に相談をして確実に非課税枠を利用できるように契約をしましょう。

4.遺言書よりも確実にお金を渡せる

 財産を持っていた人がお亡くなりになったにおいて、遺言がなかったとき、または遺言にかかれていない財産があったときは相続人全員で話し合い(遺産分割協議といいます)を行い度の財産を誰が引き継ぐかを決めます。一方で、お亡くなりになった人が遺言を遺していたときは基本的にその遺言に従って財産を引き継ぎます。

 なお、遺言がある場合でも、その遺言の通りに財産を引き継いだ場合に他の相続人の遺留分(民法で決められた相続財産の最低限保証額。相続人が子供2名のみであれば遺産総額の4分の1。)を侵害してしまっている場合には、その遺留分を侵害されてしまった相続人は財産を多めに引き継いだ相続人に対して侵害されてしまった遺留分について請求する権利(遺留分侵害額請求権)がありますので注意が必要です。

 ところが、生命保険金は他の相続財産とは違い「受取人固有の財産」ですので、そもそも上述のような遺産分割協議や遺言の有無とは関係なく、保険会社から受取人に対してダイレクトに支払われます。遺言書に記載する必要も、相続人間で遺産分割協議をする必要もなくお金を遺したい人に確実に遺すことができます。さらに、生命保険金は遺留分の計算をするうえでも元々なかったものとして扱われます。このような性質があるため、生命保険を利用することで遺言書以上に確実に遺したい人に財産を遺すことができます。

5.遺産の大部分が不動産や自社株の場合の相続争いを防ぐことができる

 相続トラブルが起きやすいケースの代表格に遺産の大部分が不動産や自社株である場合があります。後継者が相続財産の大部分(不動産や自社株)を引き継ぐことになり、他の相続人の納得が得られないとトラブルに発展します。また、単に複数の相続人で共有させるのも問題の先送りでしかなく、後々のトラブルの種となる可能性があります。

 そこで、生命保険を利用することで相続争いを未然に防ぐことができます。

 具体例で説明をしますと、親と子2人の3人家族で親が不動産2,000万円と預金500万円の財産を持っていたとします。親は親孝行をしてくれた長男に不動産を引き継いでもらいたいと考え、長男には不動産2,000万円、次男には預金500万円を相続させる旨の遺言を書こうと考えています。しかし、次男の遺留分は625万円(2,500万円÷4)ありますので、この遺言に納得しない場合は遺留分侵害額請求権を行使して、長男に対して125万円を請求することができてしまいます。

 ところが、生前に預金500万円を長男が受取人の生命保険にしておき、遺言書に長男に不動産を相続させる代わりに次男に代償金として500万円を支払うべきことを書いておくことで、そのような事態を防ぐことができます。なぜならば、生命保険金500万円は遺留分の計算対象外になるため、この場合の次男の遺留分は500万円(2,000万円÷4)となり、長男は受け取った生命保険金500万円を次男に代償金として渡すことで、次男から長男に対して請求すべき遺留分がなくなるためです。

 このように生命保険の性質を活用することで相続人同士の争いを未然に防ぐことが可能です。

6.相続放棄しても保険金は受け取れる

 借入金がある人がお亡くなりになった場合、相続人はお亡くなりになった人の財産だけでなく借入金を返済義務も承継することになります。財産よりも借入金の方が多い場合は相続人には負担になってしまうため、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄申述書を提出することで、相続人は相続放棄をすることができます。

 このように相続放棄をする場合は、生命保険金も受け取れなくなってしまうと誤解されている人もいるのですが、実は生命保険金は相続放棄をした場合でも受け取ることができます。これは、生命保険金は受取人固有の財産であるという性質によるものです。ただし、受取人が相続放棄をした場合は上述した生命保険金の相続税非課税制度は利用できなくなりますので、その点はご注意ください。

7.まとめ

 今回は生命保険を活用した相続対策について解説をいたしました。生命保険は他の財産とは異なる性質があるため、うまい使い方をすることで相続トラブルを未然に防いだり、相続税の負担を軽減したり様々な効果を発揮させることができます。相続対策の一環としての活用をご検討ください。

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