小規模宅地等の特例は老人ホームに入居していた場合に使えるのか?

2021/5/9

2021/05/09

この記事の監修

三鷹相続相談センター代表/BASE総合会計事務所代表税理士 米津良治

上智大学法学部卒業後、一般企業を経て税理士業界へ。キャリアを一貫して、企業財務と個人のマネープランの支援に取り組んでいる。法人顧問をメインに扱う税理士法人にて相続・事業承継案件の担当役員を経て、企業経営者と不動産オーナーの相続・事業承継対策に注力するために、令和2年に独立開業。

ご自宅の敷地の相続税評価額を最大で80%下げることができる小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)は、被相続人が生前に老人ホームに入居しており、ご自宅が空き家になっていた場合にも適用できるのかを解説します。

1.そもそも小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、相続税計算における土地評価の特例です。土地の利用状況などにより4つのコースがあります。各コースごとに、対象土地の評価額を減額割合の分評価減します。

土地の評価額が最大で80%減額されますので、相続税の節税効果は高く、この特例の適用有無が資産を次世代にうまく引き継げるかの鍵になるといえるでしょう。

コース説明減額割合限度面積
特定居住用宅地等被相続人の自宅の敷地に使っていた土地80%330㎡
特定事業用宅地等被相続人の事業所の敷地に使っていた土地80%400㎡
特定同族会社事業用宅地等被相続人の一族が経営する会社の事業所の敷地に使っていた土地80%400㎡
貸付事業用宅地等被相続人が第三者に賃貸していた建物等の敷地に使っていた土地50%200㎡

2.老人ホームに入居していた場合の3つの要件

さて、被相続人のご自宅の敷地に使える可能性がある小規模宅地等の特例は上記4コースのうち、「特定居住用宅地等」になります。ただし、「特定居住用宅地等」に該当するためには、相続開始直前までその人の居住の敷地に使っていたことが条件になります。

ところが、相続開始前に老人ホームに入居していた場合にはそのご自宅は空き家になってしまっているので、形式的には「特定居住用宅地等」に該当しないことになります。そこで、平成25年度の税制改正で、以下の3つの要件を満たす場合は、相続開始の直前まで被相続人の居住の敷地に使っていたものとして扱われることとなりました。

<老人ホームに入居していた場合の3つの要件>

①被相続人が要介護認定または要支援認定を受けていること

②入居施設が特別養護老人ホーム等であること

③自宅を賃貸したり、これまで別居していた親族が新たに住み始めたりしていないこと

3.誰が相続するかで特例が使えるかどうかが変わる

上記の<老人ホームに入居していた場合の3つの要件>を満たしていることで、評価対象の土地が被相続人の住居の敷地に使っていたものとして取り扱われますが、それだけでは小規模宅地等の特例は使えません。小規模宅地等の特例を使うためには、上記に加えて、その土地を相続する人に応じた要件を満たす必要があります。

3-1.配偶者が相続する場合(無条件)

被相続人の配偶者がその土地を相続する場合には、<老人ホームに入居していた場合の3つの要件>を満たしていれば、問題なく小規模宅地等の特例「特定居住用宅地等」を使えます。

3-2.同居していた親族が相続する場合(2要件)

被相続人が老人ホームに入居する直前に被相続人と同居していた親族が相続する場合には、<老人ホームに入居していた場合の3つの要件>に加えて、次の2つの要件を満たすとき、小規模宅地等の特例「特定居住用宅地等」を使えます。

①相続開始から相続税の申告期限までにその建物に住んでいること

②その宅地を申告期限まで保有していること

3-3.別居していた親族が相続する場合(3要件)

被相続人が老人ホームに入居する直前に被相続人と別居していた親族が相続する場合には、<老人ホームに入居していた場合の3つの要件>に加えて、次の4つの要件を満たすとき、小規模宅地等の特例「特定居住用宅地等」を使えます。

①被相続人に配偶者および同居の親族がいないこと

②その土地を相続した親族は相続開始前3年以内に、「自身(もしくは自身の配偶者)」「3親等以内の親族」「特別の関係がある法人」の所有する家屋に居住したことがないこと

③その土地を相続税の申告期限まで保有すること

④相続開始時に居住している家屋を過去に所有したことがないこと

4.「注意!」こんな場合は使えない

次のような場合には、小規模宅地等の特例「特定居住用宅地等」が使えなくなってしまいますので、ご注意ください。

4-1.要介護認定等を受けていない場合

被相続人が相続開始の直前に要介護認定等を受けていない場合は、小規模宅地等の特例の適用を使えません。

4-2.特別養護老人ホーム等ではない老人ホームに入居した場合

被相続人が老人ホームに入居していた場合に小規模宅地等の特例がされるのは、入居した施設が老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等である場合のみです。都道府県に届出のされていない施設の場合は小規模宅地等の特例を使えません。

4-3.老人ホーム入居後に親族が住み始めた場合

老人ホーム入居後のご自宅に老人ホーム入居前には別の場所に住んでいた親族が住み始めた場合には、小規模宅地等の特例を使えません。

4-4.老人ホーム入居後に他人に賃貸した場合(減額割合が下がる)

老人ホーム入居後にご自宅を第三者に賃貸した場合には、適用可能な小規模宅地等の特例のコースが「特定居住用宅地等(減額割合80%)」から「貸付事業用宅地等(減額割合50%)」に変わります。

5.諦めないで!こんな場合は小規模宅地等の特例が使える

次のような場合には、一見、小規模宅地等の特例が使えなそうですが、実は使うことができますので、よくご確認ください。

5-1.老人ホーム入居時には要介護認定等を受けていなかったが、相続開始の直前には要介護認定等を受けていた場合

要介護認定等は相続開始の直前において受けていたかどうかで判断がされますので、入居当初に要介護認定等を受けていなくても、死亡日までに認定を受けていた場合には小規模宅地等の特例が使えます。

5-2.要支援認定の申請中にお亡くなりになった場合

要支援認定は申請日に遡って認定があったことになります。したがって、死亡日まえに申請を出して、申請中にお亡くなりになってしまった場合であっても、その後認定がされた場合には相続開始の直前に要支援認定があったことになり、小規模宅地等の特例が使えます。

6.まとめ

老人ホームに入居していた場合に小規模宅地等の特例を適用できるかどうかの判断はとても複雑ですので、十分に確認した上で申告をしましょう。 また、老人ホームの入居前、入居後のご自宅の利用状況によって特例の適用ができたり、できなかったりしますので、大きな決断をなさる前に相続税に強い税理士にご相談なさることをお勧めいたします。

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